海外での新しい生活環境を求める人にとって、ドイツは魅力的な移住先です。
文化的な豊かさや歴史的な背景、そして住みやすい都市環境が整っているドイツは、生活の質を大きく向上させる可能性を持っています。
一方で、移住には多くの準備と考慮すべき点があります。
本記事では、ドイツ移住のメリットとデメリットを詳しく解説し、どのようにすればスムーズに移住できるのか、また居住する際に役立つビザの情報、生活スタイルに合わせたおすすめの地域も紹介します。
ドイツ移住のメリット
ドイツは、生活の質が高く、社会制度がしっかり整った国として知られています。
移住を考えている人にとって多くの魅力がある国ですが、特に注目すべきメリットを紹介します。
社会保障制度が充実
ドイツの社会保障制度は非常に整っており、医療保険や年金、失業保険などが充実しています。
特に、公的健康保険(Krankenversicherung)は、ほとんどの医療費がカバーされるため、安心して医療サービスを受けられます。
また、子育て支援も手厚く、育児休暇や児童手当(Kindergeld)などの制度があり、家族で移住を考えている人にとっても大きなメリットとなります。
ワークライフバランスが取りやすい
ドイツでは「働きすぎ」を避ける文化が根付いており、労働時間が厳しく管理されています。
法定労働時間は週40時間以内が一般的で、残業は少なく、有給休暇も年間30日程度とれる企業が多いです。
さらに、仕事とプライベートの時間を大切にする風潮があり、休暇中に仕事のメールをチェックすることは推奨されていません。
仕事だけでなく、自分の時間をしっかり確保できる環境が整っています。
教育制度が整ってる
ドイツは高等教育が充実しており、大学の授業料が基本的に無料、または非常に低額です。
そのため、長期的に移住を考えている人や、子どもをドイツで育てることを検討している人にとって、大きなメリットとなります。
また、職業訓練制度(デュアルシステム)が発達しており、大学に行かずに専門職のスキルを身につけることも可能です。
物価が比較的安定してる
ヨーロッパの中でも、ドイツの物価は比較的安定しており、特に食料品や日用品はフランスやイギリスに比べると手頃な価格で購入できます。
スーパーでは格安ブランドが充実しており、低コストで生活できるのも魅力です。
また、公共交通機関の定期券や健康保険の負担割合も他の欧州諸国と比べると抑えられているため、安定した生活を送れる環境が整っています。
環境・インフラが整っている
ドイツは環境意識が高く、街中のリサイクルシステムが充実しているほか、公共交通機関も発達しており、車がなくても快適に移動できます。
特に鉄道網が充実しており、都市間の移動がスムーズです。
また、自転車文化も盛んで、多くの都市には整備された自転車専用レーンがあり、エコで健康的な移動手段として活用されています。
さらに、公園や自然保護区が多く、都会に住みながらも自然を感じることができるのも大きな魅力です。
ヨーロッパ旅行がしやすい
ドイツはヨーロッパの中心に位置しているため、周辺の国々へのアクセスが非常に便利です。
飛行機はもちろん、高速鉄道(ICE)や長距離バスを利用すれば、フランス、オランダ、オーストリア、スイスなどへ簡単に旅行できます。
また、EU加盟国のため、シェンゲン圏内であればビザなしで自由に移動できるのも大きなメリットです。
週末に気軽に国外旅行ができるため、旅好きな人には理想的な環境といえるでしょう。
ドイツ移住のデメリット
ドイツ移住には多くのメリットがありますが、一方で日本とは異なる文化や生活環境に適応する必要があり、注意すべき点もあります。
ここでは、ドイツでの生活における主なデメリットを詳しく解説します。
ドイツ語の壁が高い
ドイツでは英語が通じる場面もありますが、日常生活や役所の手続き、病院などではドイツ語が必須となることが多いです。
特に地方では英語を話せる人が少なく、スーパーの店員や郵便局のスタッフともドイツ語でやり取りする必要があります。
また、公式書類や契約書も基本的にドイツ語で書かれており、ビザ申請や住民登録などの重要な手続きの際には、ドイツ語の理解が求められます。
そのため、移住後にスムーズに生活するためには、最低限の日常会話レベルのドイツ語を学んでおくことが必要です。
手続きが煩雑で時間がかかる
ドイツでは行政手続きが非常に煩雑で、予約を取るのに時間がかかったり、必要書類が多かったりすることが一般的です。
例えば、住民登録(Anmeldung)、銀行口座の開設、税務関連の手続きなどは、すべて役所に出向いて行わなければならず、オンラインで完結できるケースは限られています。
さらに、予約なしで役所に行くと受け付けてもらえなかったり、何度も書類の提出を求められたりすることもあります。
日本のようなスムーズな対応を期待するとストレスを感じる場面も多いため、手続きには時間がかかるものだと割り切る心構えが必要です。
家探しが大変で競争が激しい
ドイツの主要都市では住宅不足が深刻で、特にベルリンやミュンヘンでは良い物件はすぐに埋まってしまいます。
家賃の高騰も進んでおり、希望するエリアで適切な住居を見つけるのは容易ではありません。
さらに、賃貸契約を結ぶ際には、収入証明や信用情報(Schufa)を求められることが多く、外国人にとってはハードルが高くなることもあります。
内見の際には数十人が一斉に訪れることも珍しくなく、希望する物件を確保するためには根気強く探す必要があります。
気候が寒く、日照時間が短い
ドイツの気候は地域によって異なりますが、一般的に冬は寒く、日照時間が短いことが特徴です。
特に北部では冬になると朝8時ごろにやっと明るくなり、午後4時には日が沈んでしまいます。
そのため、冬季うつ(季節性うつ病)になりやすい人にとっては、気分が落ち込みやすくなる可能性があります。
また、天気が曇りがちで雨の日が多いため、日本のような四季の移り変わりを楽しむことは難しいかもしれません。
太陽の光を浴びる時間が少ないため、ビタミンD不足にも注意が必要です。
サービスが日本ほど丁寧でない
ドイツでは、顧客サービスに対する考え方が日本とは異なり、「必要最低限の対応しかしない」というスタンスが一般的です。
例えば、レストランでは店員が愛想よく対応してくれることは少なく、レジの対応もそっけないことがよくあります。
また、宅配便の受け取りや役所の対応も、日本のようにスムーズに進むことは少なく、時には「今日は対応できないからまた来て」と言われることもあります。
最初はこの対応にストレスを感じるかもしれませんが、「ドイツではこれが普通」と割り切ることが大切です。
クレジットカードが使えない店が多い
ドイツは現金文化が根強く、特に地方の小さなレストランやカフェ、個人経営の店舗ではクレジットカードが使えないことが多々あります。
スーパーやチェーン店ではカード決済が普及しているものの、VisaやMastercardよりもドイツ国内の「Girocard」が主流であるため、国際ブランドのカードが使えないこともあります。
そのため、移住後は現金を持ち歩く習慣をつけるとともに、現地の銀行で口座を開設し、ドイツで一般的に使われるデビットカード(ECカード)を発行してもらうのがおすすめです。
ドイツ移住に必要なビザ
ドイツ移住に必要なビザを紹介します。
目的にあったビザの取得を目指しましょう。
就労ビザ
ドイツで働くためには、雇用主のサポートを受けて就労ビザを取得する必要があります。
①一般就労ビザ(Arbeitserlaubnis)
対象者: ドイツ企業に雇用される人
- ドイツの企業から正式な雇用契約を得る
- 職種によっては、EU圏内の人より優先的に雇われる理由を示す必要がある
- 必要に応じてドイツ語能力証明
② EUブルーカード(Blaue Karte EU)
対象者: 高度な専門職(IT、エンジニア、医療職など)
- 年収が最低 €45,300(約720万円)以上(不足する場合、特定職種では€41,041以上でも可)
- 大学卒業資格を持っていること
フリーランスビザ・自営業ビザ
ドイツで独立して働きたい場合は、以下のビザを申請できます。
① フリーランスビザ(Freiberufler Visum)
対象者: デザイナー、ITエンジニア、ライター、翻訳者、アーティスト、医師、弁護士など
- ドイツでの活動が「文化的または経済的に有益」とみなされること
- 仕事を請け負う予定の顧客リスト(事前契約書があると有利)
- 健康保険に加入していること
② 自営業ビザ(Gewerbetreibender Visum)
対象者: 飲食店経営、ショップオーナー、スタートアップなどの事業主
- ドイツ経済に貢献するビジネスプランを持つ
- 事業資金を自己調達できる証明
- 事業の利益がドイツ国内で期待できること
学生ビザ
対象者: ドイツの大学や専門学校に通う人
- 入学許可証(大学・語学学校)
- 生活費を賄える資金証明(€11,208/年)
- 健康保険の加入
ワーキングホリデービザ
対象者: 日本国籍で18歳~30歳の人(最長1年間滞在可能)
- 生活費を賄う資金(約€4,500)を証明できること
- 健康保険に加入
- 渡航目的が「観光+短期労働」の場合のみ適用
配偶者ビザ・家族滞在ビザ
対象者: 配偶者・家族がドイツ在住の場合
- 配偶者がドイツ国籍、またはドイツで合法的に居住していること
- 生活費を十分に賄えること
- 配偶者ビザの場合、A1レベルのドイツ語能力証明が求められることも
永住権と市民権
長期的にドイツに住み続ける場合、永住権や市民権の取得が可能です。
① 永住権(Niederlassungserlaubnis)
- 通常ビザで5年以上 ドイツに滞在していること
- 安定した収入がある
- ドイツ語B1レベル以上
② 市民権(Staatsangehörigkeit)(ドイツ国籍取得)
- 8年以上ドイツに滞在(永住権保持者なら短縮可)
- B1以上のドイツ語能力
- 経済的に自立していること
- 重国籍は原則不可(例外あり)
ドイツ移住におすすめの地域
ドイツは地域によって雰囲気や生活コスト、仕事のチャンスが大きく異なります。
移住する際は、自分のライフスタイルや目的に合った都市を選ぶことが大切です。
ここでは、ドイツ移住におすすめの都市を、それぞれの特徴やメリット・デメリットとともに紹介します。
ベルリン|スタートアップ・アート・国際都市
ベルリンはドイツの首都であり、国際的な雰囲気を持つ都市です。
スタートアップ企業やIT業界が活発で、英語のみで働ける仕事も多いため、ドイツ語が不安な人にも比較的住みやすい環境といえます。
また、アートや音楽などのカルチャーも充実しており、クリエイティブな雰囲気が漂っています。
他の大都市に比べて家賃が安いのも魅力ですが、近年の住宅不足により家探しが難しくなっている点には注意が必要です。
ミュンヘン|高収入・安定・治安の良さ
ミュンヘンは、ドイツ国内でも特に経済的に安定した都市の一つです。
BMWやシーメンス、アリアンツといった大手企業の本社があり、失業率が低く、高収入の仕事を見つけやすいのが特徴です。
街全体が清潔で治安も良く、自然も豊かで住環境が整っています。
ただし、家賃はドイツ国内でも最も高い水準にあり、家探しは容易ではありません。
また、保守的な雰囲気があり、英語だけでは働きにくい職場も多い点は考慮しておくべきでしょう。
ハンブルク|港町・海・デザイン・音楽
ドイツ北部に位置するハンブルクは、ヨーロッパ有数の港町であり、貿易・物流業が盛んな都市です。
また、デザインや広告、音楽などのクリエイティブな産業が発展しており、アートや文化に興味がある人には魅力的な環境が整っています。
さらに、海や湖が近くにあり、自然と都会がバランスよく共存している点も魅力です。
しかし、年間を通じて曇りや雨の日が多く、冬の日照時間が短いことから、気分が沈みやすいと感じる人もいるかもしれません。
フランクフルト|金融・ビジネス・交通の便の良さ
フランクフルトは、欧州中央銀行(ECB)をはじめとする多くの金融機関が集まる、ドイツの金融の中心地です。
国際色が豊かで、英語が通じやすい環境のため、外国人が働きやすい都市の一つでもあります。
さらに、フランクフルト空港を擁しており、ヨーロッパ各国へのアクセスが非常に良いのも利点です。
一方で、ビジネス都市であるため街全体が無機質な印象を受けることもあり、文化的な面白みを求める人には物足りなく感じることもあるかもしれません。
また、住宅費は比較的高く、住まい探しが難しい点も考慮する必要があります。
ライプツィヒ|家賃の安さ・アート・スタートアップ
ライプツィヒは「東のベルリン」とも呼ばれることがあり、アートや音楽、サブカルチャーが発展している都市です。
ベルリンと似た雰囲気を持ちながら、家賃が格段に安く、広いアパートを借りることができるのが大きなメリットです。
スタートアップ企業も増えており、今後の発展が期待される地域でもあります。
ただし、他の大都市と比べると仕事の選択肢が限られており、特にドイツ語ができないと職探しは難しいかもしれません。
そのため、リモートワークをする人や、フリーランスとして活動する人に向いている都市といえます。
デュッセルドルフ|日本人向け・日系企業が多い
デュッセルドルフは、日本人が最も多く住むドイツの都市であり、日系企業が多く進出しています。
そのため、日本食レストランや日本の食材を扱うスーパーが充実しており、海外に住みながらも日本の文化を身近に感じることができます。
日本人向けのサービスも多いため、ドイツ語に自信がない人でも比較的安心して暮らせるでしょう。
ただし、日本人コミュニティがしっかりと形成されているため、ドイツらしい生活を求める人にとっては、やや物足りなく感じることもあるかもしれません。
ドイツ移住成功のポイント
ドイツに移住する際、準備や適応の仕方によって生活の快適さが大きく変わります。
スムーズに移住し、充実した生活を送るための成功のポイントを紹介します。
ビザと滞在許可をしっかり確認する
ドイツで合法的に生活するためには、適切なビザや滞在許可を取得することが最も重要です。
就労ビザ、フリーランスビザ、学生ビザなど、自分の目的に合ったビザの条件を事前に確認し、必要な書類を揃えておきましょう。
特に、フリーランスビザは書類準備に時間がかかるため、余裕を持った申請が必要です。
住居探しは早めに動く
ドイツの主要都市では住宅不足が深刻で、良い物件はすぐに埋まってしまいます。
特に、ベルリンやミュンヘンでは家探しが難しく、競争率も高いため、できるだけ早く準備を始めましょう。
現地に知人がいない場合は、不動産サイト(ImmobilienScout24やWG-Gesuchtなど)を活用し、オンラインでの問い合わせを積極的に行うことが大切です。
また、一時的にシェアハウスや短期滞在用の物件を借りてから、本格的に長期の住居を探す方法もおすすめです。
ドイツ語を学ぶ努力をする
大都市では英語が通じる場面も多いですが、日常生活や役所での手続きではドイツ語が必要になります。
特に、地方に住む場合や、職場でドイツ人と一緒に働く場合は、最低限の日常会話レベルのドイツ語は身につけておいたほうがスムーズに生活できます。
語学学校に通ったり、オンラインで学習を進めたりして、少しずつでも学ぶ習慣をつけましょう。
銀行口座と健康保険を整える
ドイツで生活するには、現地の銀行口座を開設することが必要です。
給与の受け取りや家賃の支払いには銀行口座が必要なため、移住後できるだけ早く開設しましょう。
N26やDeutsche Bankなど、外国人にとって手続きが比較的簡単な銀行を選ぶのがおすすめです。
また、ドイツでは健康保険への加入が義務付けられているため、移住前に公的保険と民間保険の違いを理解し、自分に合ったプランを選んでおきましょう。
仕事の確保または収入源の確保
ドイツに移住する前に、仕事を確保しておくことが安定した生活を送る鍵となります。
企業に就職する場合は、LinkedInやXing(ドイツ版LinkedIn)を活用して求人を探し、可能であれば移住前にオンライン面接を受けておくとスムーズです。
フリーランスやリモートワークをする場合は、現地でのビジネス登録(Gewerbe Anmeldung)や納税の仕組みを理解しておくことが重要です。
また、移住当初は生活費がかかるため、貯金を十分に用意しておくと安心です。
役所での手続きを早めに済ませる
ドイツでは、住民登録(Anmeldung)が義務付けられています。
新しい住所が決まったら、できるだけ早く市役所で住民登録を行いましょう。
この手続きが完了しないと、銀行口座の開設や税番号の取得ができず、仕事を始める際にも支障が出る可能性があります。
また、税務署(Finanzamt)での税番号の取得や、健康保険の加入手続きなども、早めに済ませることが大切です。
文化の違いを理解し、現地の生活に適応する
ドイツの文化や生活習慣は、日本とは異なる点が多くあります。
例えば、スーパーのレジでは袋詰めを自分で行う、日曜日はほとんどの店が閉まる、アパートでは夜間の騒音に厳しいルールがあるなど、日常生活のルールを理解しておくとスムーズに適応できます。
また、ドイツでは個人の時間を大切にする文化があり、職場でもフラットなコミュニケーションが求められます。
日本的な「空気を読む」文化とは異なるため、意見をはっきり伝えることが重要になります。
コミュニティを見つける
移住直後は孤独を感じることもありますが、現地での友人やコミュニティを見つけることで、より楽しく生活できます。
ドイツには日本人コミュニティや、国際的な交流イベントが多くあるので、積極的に参加してみましょう。
MeetupやFacebookグループなどを活用すると、現地の人や他の移住者とつながるきっかけが作れます。
また、日系企業での仕事を探す場合は、デュッセルドルフなどの日本人が多い地域も選択肢の一つになります。
ドイツへの移住のまとめ
ドイツへの移住は、文化的な豊かさと安定した経済を享受できる魅力的な選択肢です。
特に、公的健康保険制度や教育水準の高さなど、生活環境の良さは大きなメリットと言えるでしょう。
美しい自然や多様な文化イベントも、新たな生活に彩りを加えます。
一方で、ビザ取得のプロセスやドイツ語の習得が必要な点は移住者にとっての挑戦です。
しっかりと調査し、自分自身の生活スタイルに合った地域を選ぶことが成功への鍵です。
準備を怠らず、計画的に行動し、ドイツでの新しい生活を楽しみましょう。