ローカライズの仕事は、製品やサービスを、使う地域の言葉や慣習に合わせて整える仕事です。本記事では、英語から日本語向けに整える例を扱います。英文を訳すほか、言葉をそろえる、画面で読みやすさを確かめる、仕様が分からない箇所を依頼元に確認する、といった業務があります。
未経験から考えるなら、まず「訳文を作りたい」「使う人の迷いを見つけたい」「人と締め切りを調整したい」のどこに、自分の経験がつながるかを見てみましょう。接客、文書作成、事務や営業の調整経験を、担当業務に結びつけて整理できます。
この記事では、架空のファイル選択画面を使い、文案の修正から商品担当への確認、修正後のチェックまでを追います。読み終えたら、自分でも「変更案・理由・確認先」をまとめた1ページの練習メモを作れます。
この記事の目次
ローカライズは、言葉と利用場面をチームで整える仕事
Microsoftは、翻訳をローカライズの一部と位置づけ、文章だけでなく日付や通貨の表記、画像なども対象になると説明しています。対象はアプリに限らず、Webサイト、説明書、ヘルプなどにも広がります。出典:Microsoft「Localizing your product」
たとえば、英語の案内を自然な日本語にしても、説明に出てくるボタン名が画面と違えば、利用者は次の操作で迷います。逆に、文章は少し短くできても、重要な条件まで落としてしまえば困ります。「日本語として自然か」と「この場面で正しく使えるか」を行き来するのが、この仕事の面白さであり、難しさです。
翻訳・言語QA・進行管理・商品担当は、何を受け持つ?
以下は仕事内容を理解するために編集部が整理した分担例です。会社や案件によって名称や担当範囲は異なり、一人が複数を兼ねる場合もあります。
- 翻訳・編集担当
- 原文の意味、読者、用語集を踏まえて日本語案を作ります。言い換えた理由と、原文だけでは判断できない点も残します。この後の作例では、案内文とボタン名の不一致を直す案を出します。
- 言語QA・レビュー担当
- QA(品質保証)の一環として、訳文の品質を確認する担当です。訳文を読み、誤訳や表記の揺れを確認します。画面での確認を担当する場合は、表示位置や前後の操作と照らし合わせ、問題の場所・再現手順・影響を伝えます。職種によっては機能テストと担当が分かれます。
- 進行管理・プロジェクトマネージャー
- 翻訳者や確認担当をつなぎ、質問の回答先、締め切り、差し戻しを管理します。作例では「文案は修正できるが、選択後の動作は確認待ち」と分け、回答がないまま完了扱いにしない役目です。
- 商品・サービス側の担当
- この作例では、画面の目的や動作を説明し、既存名称を変更してよいか判断する人とします。翻訳担当だけでは決められない仕様や、どこまで直すかを相談する相手です。実務では、決定権を持つ人を案件の初めに確かめます。
この整理の土台は、Microsoftが挙げる翻訳者・言語担当・QA・進行管理などの役割です。また、GitLabの公開職務説明にも、ローカライズ担当とProduct、UX、Marketingなどの連携が示されています。ただし、上の四分担は両社共通の組織図ではありません。Microsoftの役割例/GitLabの職務説明
完成例:ファイル選択画面を、日本語で迷わず使えるようにする
ここからの画面、原文、担当者の会話は、すべて編集部が作った架空の練習例です。Microsoftなど実在企業の製品画面や業務実績ではありません。
舞台は、社内勉強会の主催者が資料を添付するサービスです。ファイルの一覧から一つを選び、右下のボタンで確定します。既存の日本語ボタン名は[選択]。このボタン名を案内文でも正しく示すことが、今回の課題です。
1.原文と、実際に置かれる場所を一緒に読む
架空の原文は “Choose a file, then click Select.”。初稿を「ファイルを選び、[選ぶ]を押してください」とすると、文として読めても、画面に[選ぶ]というボタンはありません。
そこで、修正案を「添付するファイルを選び、[選択]を押してください」とします。前半は行動を説明する文章、後半の角括弧内は実際のボタン名です。添付の用途は、画面の目的として与えられた設定から補っています。
2.スタイルガイドは、判断の根拠として読む
Microsoftの日本語スタイルガイドp.8には、文章での「選ぶ」と、従来から使われるボタン名などの「選択」を文脈に応じて使い分ける例があります。例を一律に採用しないことや、画面上の文字切れへの配慮も説明されています。これはMicrosoftの表現方針の例です。どの会社でも「文章なら必ず選ぶ、ボタンなら必ず選択」と決めるルールではありません。出典:Japanese Localization Style Guide p.8(PDF)
今回の案で大切なのは、「選ぶ」のほうがいつでも正しいから直すことではなく、読み手に合う案内文にしながら、画面上の名称を保つことです。実務では依頼元のガイドと承認済み用語を先に確認し、既存の名称を変える場合は関連するヘルプや別画面への影響も相談します。
初稿:案内とボタンが一致しない
資料を添付
ファイルを選び、[選ぶ]を押してください。
「選ぶ」というボタンを探してしまう。短い文でも、操作対象が合っていない。
修正案:役割に合わせて書き分ける
資料を添付
添付するファイルを選び、[選択]を押してください。
行動の説明は「選び」、操作する名称は画面どおり「選択」。名称変更はしていない。
編集部による静的な表示見本。実在サービスの操作画面ではなく、ボタンは動作しません。
3.表示を見る。分からない動作は、文章で埋めない
次に、案内文がボタンの近くに表示されるか、文字が切れていないか、読みづらい改行がないかを確かめます。文字数だけでは十分ではありません。同じ文でも、表示幅や文字の大きさによって見え方が変わります。
Microsoftのテスト資料は、言語・表示・機能の確認を区別し、実際の利用場面で訳文を見る確認方法を説明しています。翻訳文の一覧だけでなく、画面内で読む意味がここにあります。出典:Microsoft「How to perform localization testing」
この段階で「[選択]を押すと、すぐ資料が送信されるのか」という疑問が出たとします。画面の見た目だけでは分かりません。「送信されます」と訳文に足す前に、商品担当へ確認します。字を短くする作業より、分からないことを具体的に質問する力が必要になる場面です。

4.担当者が答えられる確認メモにする
「この訳でいいですか」だけでは、相手は何を判断すればよいか分かりません。場所、案、理由、未確認点を分けると、回答しやすくなります。次は、そのまま練習の型にできる完成例です。
確認メモ LOC-01|資料選択画面の案内文
- 対象と利用者
- 勉強会の主催者が、添付資料を一つ選ぶ画面。日本語で操作する人向け。
- 原文
- Choose a file, then click Select.
- 修正案
- 添付するファイルを選び、[選択]を押してください。
- 理由
- 案内文のボタン名を、既存の[選択]と一致させる。文章部分は日常的な表現にする。
- 設定として分かっていること
- ボタン名は[選択]。名称自体は変更しない。前の画面に[保存]があることは分かっているが、送信されるタイミングは未確認。
- 商品担当への質問
- [選択]を押した時点でファイルは送信されますか。それとも、前の画面にファイル名を反映するだけで、[保存]を押すまで送信されませんか。
- 確認待ちの扱い
- 上の文案は採用候補。送信タイミングの説明追加は保留。進行管理担当が回答者と回答期限を決める。
- 商品担当からの回答例
- 「[選択]では前の画面にファイル名を反映するだけです。送信は[保存]を押した時点です。」※架空の回答。
- 回答後の判断
- 今回の文案はそのまま採用。案内文に送信されるとは書かない。送信タイミングの説明が必要なら、前の画面の[保存]付近を別件として確認する。
- このメモの状態
- 文案の判断までを示した練習用の完成例。実製品への反映や、実機での表示・動作確認は未実施。
- 実務で完了前に確認すること
- 修正文の反映、ボタン名との一致、想定する画面幅での文字切れ・改行、[選択]後の動作。問題があれば場所と手順を添えて戻す。
質問を送って終わりにせず、回答がどの文に影響するかまで記録するのがポイントです。回答によっては案を変えますし、今回のように「今の案でよい」と判断できることもあります。実務では採用後も、実際に表示される版で確認します。確認した版、画面幅、結果、確認者を記録し、案件で決めた承認を経て完了にします。この練習メモが完成しても、実製品の確認を終えたことにはなりません。
- 翻訳・編集 → 言語QA「[選択]」に合わせた文案と変更理由を渡す
- 言語QA → 進行管理表記の確認と、未確認の送信タイミングを分けて報告
- 進行管理 → 商品担当「送信は[選択]時か[保存]時か」を質問し、回答期限を確認
- 商品担当 → 翻訳・編集架空の回答:「送信は[保存]時」→ 今回の案内文は維持
- 決められた確認担当 → 進行管理言語QAや機能確認の担当が、修正後の画面・名称・動作を確認。問題があれば担当へ戻し、確認できたら完了を報告
編集部作成の分担例。実務では、連絡経路と最終承認者を案件ごとに決めます。
接客・文書作成・調整経験は、どの担当につながる?
未経験者が整理したいのは、「英語以外に何が得意か」です。次の例は、応募資格を満たすことを保証するものではなく、すでに経験した作業をローカライズの業務と比べるための見方です。
接客・カスタマーサポート:人が迷う場所を言葉にする
お客様に同じ操作を何度も説明した経験があれば、どの言葉で止まり、何を補うと理解できたかを思い出してみてください。「操作に困る人の質問を聞き、説明を言い換えた」経験は、利用場面を考えるレビューの練習につながります。
まず試すなら、図1を初めて見る人に説明し、相手がどのボタンを押すと思ったかを聞いてみましょう。迷いが出たら、相手の能力のせいにせず、文章と画面のどこで認識がずれたかを記録します。そこに、原文の意味を確かめる力と、問題を再現できる報告の書き方を足していきます。
事務・編集・マニュアル作成:同じ意味を、同じ言葉で伝える
案内文や手順書を作った経験は、用語や文章の調子をそろえる仕事と比較できます。ただし、全部を同じ語に直せばよいわけではありません。図1のように、普通の文章と画面上の名称では扱いが違います。
練習では、短い案内文を一つ書き、「変える語」「保つ名称」「理由」を記録してみてください。理由を「こちらが好きだから」で終えず、読者、表示位置、既存名称のどれに基づくか説明できると、翻訳・編集やレビューの担当内容が見えやすくなります。
営業事務・イベント運営:確認先と締め切りをそろえる
複数の人に確認し、回答をまとめて作業を進めた経験は、進行管理の業務と比較できます。たとえば、修正依頼を受けたときに「誰の回答待ちか」「ほかの作業は進められるか」を分けた経験です。
今回のメモなら、文案の修正と送信タイミングの回答待ちは別の状態です。練習では、質問ごとに回答者と期限を書き、回答後に何を再確認するかを添えてみましょう。実際の経験がある人は、そのとき使った管理方法を説明できます。経験がなければ、学習用に作ったメモと明記します。
どの領域でも、語学力だけで判断できない商品知識や、仕事で使うツールを学ぶ必要があります。職務経歴書には経験した事実を書き、練習メモを実案件の成果として扱わないようにしましょう。ほかの選択肢も比較したい人は、英語スキルを活かせる仕事一覧も参考になります。
未経験から準備するなら、求人の経験条件と分けて考える
仕事内容に興味を持つことと、すぐ応募条件を満たせることは別です。一例として、FAS Localizeの「Localization Project Manager」の公開求人には、翻訳者・レビュアーの手配や納期管理、顧客への確認対応、品質確認結果を含む納品までの管理が挙げられています。
同求人は、ローカライズまたは翻訳プロジェクト管理の経験2年以上、顧客対応のための流暢な英語、CATまたはTMSツールの実務経験を求めています。勤務地の表記は「Remote, Vietnam」です。未経験者向け求人として紹介するものではなく、日本からの勤務が認められるとも判断できません。これは一社の条件であり、業界全体の基準でもありません。出典:FAS Localizeの公開求人(2026年10月9日確認)
CATは翻訳を支援する道具、TMSは翻訳案件や素材を管理する仕組みです。道具の名前を知っている状態と、仕事で使った経験は分けて伝えます。今の準備としては、興味のある担当領域を選び、必要な語学・専門知識・道具のどこが不足しているかを確かめる順番が現実的です。
経験条件が合わない求人に合わせて経歴を言い換えるのではなく、別の募集で担当範囲や育成条件を確認する、今の仕事で許可された文書改善や調整業務を経験する、といった選択肢を考えましょう。本記事は、特定の未経験求人や採用経路を保証するものではありません。
英語は、訳す練習に加えて「確認し、理由を説明する」練習を
海外の担当者と働く場面を想定するなら、きれいな訳文を作る練習に、短い質問を添えてみましょう。今回の商品担当への確認なら、次の英語で要点を伝えられます。
Does clicking “Select” upload the file, or does the upload happen only after clicking “Save”?
意味は「[選択]を押すとファイルが送信されますか。それとも、[保存]を押したときに初めて送信されますか」です。画面名や画像を添え、相手が同じ場所を見られるようにしてから聞きます。
文案の理由を伝えるなら、次の短い説明も練習できます。
The Japanese instruction should use the same button label as the screen. I suggest keeping the existing label.
「日本語の案内は画面と同じボタン名を使う必要があります。既存の名称を保つことを提案します」という意味です。どちらも本記事の架空例のために作った英文で、企業指定の定型文ではありません。
英会話や留学の授業で練習する場合も、「この画面を説明する」「質問に答えてもらう」「回答を日本語メモに戻す」と目的を決めると、仕事のやり取りに近づけられます。レッスン相手の回答は実製品の仕様ではなく、練習用の設定として扱ってください。留学経験だけでローカライズ実務を経験したことにはなりません。
AIを練習相手にするなら、今回の架空画面の設定を渡し、質問文の分かりにくい点を指摘してもらう使い方ができます。AIに製品の仕様を推測させ、その答えで確認済みにしないことが大切です。職場の未公開資料や顧客情報は、会社のルールと利用許可を確認せず入力しないでください。
最初の一歩は、1画面・1件の改善メモを作ること
最初から大量に翻訳するより、一つの変更を最後まで説明する練習をしてみましょう。本記事の架空画面を使えば、サービスに登録したり、利用者の情報を集めたりせずに取り組めます。
- 利用者と場面を決める。誰が、何をするために読む案内かを一文で書く。
- 文案を一つ作る。説明の文章と、変更しない画面名称を分ける。
- 理由を添える。読みやすさ、名称の一致、表示上の制約のうち何を改善するのか書く。
- 不明点を質問にする。自分が決められない動作や条件を、確認先と一緒に記す。
- 回答後の扱いを決める。案を採用・修正・保留のどれにするかと、最終確認する項目を残す。
公開資料を別の練習に使う場合は、URLと確認日を記録し、必要な短い箇所だけ参照します。既存サービスの誤りだと断定せず、確認できた事実と自分の改善案を分けてください。第三者の画面や文章を作品集として公開するときは、利用条件や転載の可否も確認が必要です。
出来上がったメモを見て、表現を考える時間が楽しかったなら翻訳・編集、迷いや食い違いを見つけるのが得意なら言語QA、質問を整理して前へ進めるのが得意なら進行管理を、次に詳しく調べる候補にできます。これは適性検査ではありませんが、「英語を使う仕事がしたい」を具体的な作業に近づける材料になります。
ローカライズ確認メモの練習シートをPDFで開く(A4・1ページ/印刷して記入する空欄シート)
ローカライズの仕事でよくある疑問
プログラミングができないと難しいですか?
翻訳、言語レビュー、進行管理など、コードを書くことを主業務としない役割があります。ただし、職種名だけで判断せず、求人の担当範囲や道具の要件を確認しましょう。本記事の練習は、コードを書かずに取り組めます。
英語が得意なら、すぐローカライズの仕事に就けますか?
英語力に加えて、担当する言語の文章力、商品理解、確認や調整の力が必要です。掲載した経験者向け求人には実務経験の条件もあります。まず、自分が受け持ちたい作業と、まだ練習が必要な作業を分けてみましょう。
翻訳の仕事の将来性や、AIの影響も知りたいです
そのテーマは、翻訳の仕事はAIでなくなる?未経験から目指す人の判断表と残る領域で扱っています。本記事の練習では、訳文の作成方法にかかわらず、画面や仕様との一致を自分で確かめます。
まとめ:自分の経験から、受け持ちたい作業を見つけよう
ローカライズには、訳文を作る仕事に加え、利用場面で確かめる仕事や、確認先と締め切りを調整する仕事があります。今回の例でも、一つの案内文を整えるために、翻訳・言語QA・進行管理・商品担当のやり取りが必要でした。
未経験からの最初の一歩は、自分の接客・文書作成・調整経験を棚卸しし、1件の改善メモに取り組むことです。変更案だけでなく、判断の根拠と未確認点を書いてみてください。そこから、次に伸ばす日本語・英語・仕事の知識が見えてきます。
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