Sun*(サンアスタリスク)の西出です。
前回は、ジェネラルな観点からテクノロジーの未来・IT技術の未来を予見する方法として、ガートナーのハイプサイクルを紹介させて頂きました。
今回は、より具体的に特定の技術領域に絞った最先端技術のご紹介として、XR(VR, ARなどの総称)の現状と未来について紹介させて頂ければと思います。
記事のもくじ
そもそもXRとは?
そもそも「XR」ということば自体を聞き慣れない方も多いと思います。
XRとは、「Virtual Reality / 仮想現実(以下VR)」や「Augmented Reality / 拡張現実(以下AR)」、さらには「Substitutional Reality / 代替現実(以下SR)」など、私たちが日常生活している物理世界の現実感覚をアップデートしていく技術領域を総称した用語です。
多くの人にとってイメージしやすいのは、VRやARという領域かと思います。
VRとは?
VRとは、「仮想世界、情報空間を現実世界であるかのように体験できる」という技術です。
Play Stationも、かなり前からPlay StationVRを提供しています。また、Facebook配下のOculusは、昨年のOculus Go、今年のOculus Questなどを発表し、数万円で購入できる手頃なVRヘッドセットを提供しています。
ARとは?
ARとは、既にゲームや家具のカタログなどで利用されており、わかりやすいのはPokemon Goやドラゴンクエストウォーク、IKEAのカタログなどです。
実際の生活空間に対して「仮想世界の情報を重ね合わせて表示することで、現実世界を拡張する」という技術となっています。
SRとは?
SRとは、アニメにおける「ソードアート・オンラインの世界」を実現する技術のことで、「仮想世界をあたかも現実世界であるかのように認識できる」という技術です。
少し古い映画ですが、映画「マトリックス」で人間が生きていたシミュレーションの世界も、まさにSR的な世界です。
これらのような「Realityをテクノロジーによって操作・拡張する」という技術の総称が「XR」ということばで表現される世界です。
それでは、ここから、そんなXRの世界の現状と未来について紹介していきます。
XRの現状と未来。Oculus Connect6の基調講演より
今回XRの現状と未来について紹介するにあたって、Facebook傘下でVR/ARの技術研究とプロダクト開発を進めるOculusが実施しているカンファレンス「Oculus Connect」での発表内容を参照してみます。
上記の動画は、2019年9月に行われた「Oculus Connect6」の初日Keynote(基調講演)の動画です。
現状Oculusは、2018年のOculus Goの発売、2019年のOculus Questの発売などから、廉価で一般消費者が購入可能な金額帯でのVRヘッドセットを市場投入し、VRマーケットにおいて一歩抜きん出たポジションを取りつつあります。
そのため、Oculusの動向をきちんと抑えることで、VR技術を中心としたXR技術の動向の概要を押さえることができます。
今回は、こちらの「Oculus Connect6」の基調講演で発表された内容を紹介しながら、そこから考えられるXR技術の未来について紹介できればと思います。
※ ちなみに、GAFAMやAdobeが毎年行っているこのようなカンファレンスの基調講演のほとんどが、Liveで世界配信されると同時に、Youtubeチャンネルなどでいつでも見ることが出来ます。 このようなカンファレンス動画の英語はわかりやすい英語ですし、Youtubeの自動生成の英語字幕などを表示すれば、話している内容の字幕も見れるので、英語の勉強をしながらテクノロジーの最先端も知れる一石二鳥のコンテンツです。
Oculus Connect6 で注目すべきだったこと
2020年前半に手をコントローラーとして利用できる
上記動画は、基調講演の11分あたりでザッカーバーグが紹介した動画で、2020年前半に利用可能となる予定の「手をコントローラーとして利用できるVR体験」の紹介動画です。
既に、2019年前半に発売されたOculus Questによって、VR版Wiiとでも言えるようなモーションコントローラを利用したVR体験ができるようになっています。
実際には、Oculus Quest以前にも、MicosoftのKinectや、NintendoのWiiなどのように、既にモーションコントローラを活用したゲームは生まれていました。
また、VR技術の中でもHTCなどのVRヘッドセットは、外部センサーを利用したモーションコントロールVRを実現してはいました。
しかし、Oculusが今回発表したハンドトラッキングでは、「スタンドアロンのVRヘッドセット(外部設置のセンサーを使わない)」として、手の動きをコントローラとして利用できるようになったのは、かなり革新的なVR技術の進歩だと言えます。
神経入力インターフェースの研究チームを買収
また、こちらはザッカーバーグが基調講演の13分45秒あたりで紹介する内容ですが、「VRの世界にもっと自然に、もっと没入できる方法は必要だよね」という文脈から、「考えるだけでデジタルオブジェクトに触れられるようにする技術」として、神経信号をコンピュータへの入力として活用する”CTRL Labs”の買収についても紹介しています。
その紹介の際、「神経インターフェースが、次世代コンピューティングプラットフォームの新しい入力方式になる」という風に言及しています。
「神経インターフェース」については、イーロン・マスクも「Neuralink」などでかなりアクティブに活動していますし、近未来において、人間がコンピュータとやりとりをする際の新しい常識になっていくことは間違いなさそうです。
ARデバイスの開発を開始
さらに、基調講演の29分20秒くらいで、「人と人との空間を超えた距離感・親密性」を提供できるVR可能性の限界についての話が出てきます。
1VRは遠隔地に居る人との親密性や近さを高めることはできるが、物理的に隣にいる人との親密性に対してはAnti-Socialな経験になる、と。
その上で、「物理的に隣に居る人との距離感も損なわず、遠隔地に居る人とのVR的な距離感の近さも両立するために、ARグラスの開発も開始した」というアナウンスがなされます。
序盤のザッカーバーグ自身の基調講演でも常に「VR/AR」を並列で取り扱いながら話しているのですが、「Oculusを中心にVRへ注力をしていたFacebook」という印象が強い中で、明確に「VR/ARのあわせ技で、リアリティをアップデートしていく」という姿勢が「Oculus Connect6」の講演から強く漂っていました。
Oculus Connect6 から想像するXRの未来
今回ピックアップした「手をコントローラとして使う」「神経信号を使った入力を実現していく」「ARデバイスも開発することで、AR/VR体験をアップデートしていく」というようなOculus/Facebookの話を見ると、みなさんはどのように感じるでしょうか。
VRのリアリティが手をコントローラとして使えることで更に高まり、ヘッドセットをつけてでも体験したい疑似体験として価値が高まっていくこと。
考えるだけで操作ができるVR世界は、冒頭で紹介したSRとして、現実世界の代替物として没入するような価値を持ち始めるかもしれないということ。
VRとして強かったOculus研究チームが、ARデバイスも作り始め、仮に「AR/VR双方を実現できるようなメガネデバイスが実現された世界」が来ると。
さらに、網膜投影や透過型ディスプレイ、ホログラムの活用などをうまくすることができれば、VRデバイスでありARグラスでもある、というようなデバイスが実現すること。
そんなXRの世界は、人間にとっての「リアリティ」それ自体をテクノロジーによってアップデートしていく世界です。
実際に、OculusベースのVRプロダクト開発・リサーチチームだったOculus Researchは、2018年5月に「Facebook Reality Lab」という名前に名称変更しています。
Facebook研究チームの公開カンファレンスの情報を見て、5年後・10年後の世界へ少し考えを巡らせてみると、実は僕たちが生きているリアリティそれ自体が、「物理空間、VR空間、AR空間」など、複数のリアリティが重なり合ったような様相を呈してくる、ということに気づくことができるのではないかと思います。
Facebook/Oculusの動向に見るVR/AR/XRの未来とは?のまとめ
「人間にとってのリアリティ」をアップデートすることを考えると、現在のXRプロダクトのように「視覚」と「聴覚」だけではない感覚ともやりとりをするデバイスや技術も研究されていくでしょう。
最近は、音声インターフェース・音声アシスタントの世界もかなりホットな話題ですが、イヤホンとスマートスピーカーを中心とした音声インターフェースに関する技術も、今後はこれらリアリティをアップデートする技術と統合されていきます。
また、音声だけではなく、神経信号を利用したコントローラの未来には、神経に直接「触覚的な刺激を与える」「嗅覚的な刺激を与える」「味覚的な視覚を与える」という技術も研究されていくのは間違いありません。
テクノロジー企業の研究の果てに「味覚への刺激を想定通りに与える神経信号技術」が開発されたとき、「料理人の仕事」が「味覚刺激をプログラミングする」という仕事になるという未来が来ないとは、誰にも言うことはできないでしょう(少なくとも、そんなテーマのSF映画は作れるでしょう)。
これら「人間にとってのリアリティそれ自体」が、コンピュータやインターネットによって再設計・再編成されつつあるのが、現在のVR/AR周辺の技術動向と言えます。
そして、これらリアリティのアップデートにおいて大切なのが、「人間と情報空間の関わり方」の設計の部分であり、広い意味での「フロントエンド技術」とこのあたりの議論は繋がってきます。
今後、「フロントエンド技術」に興味を持って学習を始めようとされている方は、このあたりの少し未来の話も意識頂けると嬉しく思います。
※ 本記事の公開直前に、このような技術動向についてうまく整理したnoteの記事が公開されていました。
ぜひ参考に下記記事もチェックしてみてください。