近年「人工知能は人間を殺してしまう」というSF映画の議論から、「AIに仕事が奪われる」という話題が増え、徐々に”AI”というワードも現実世界の文脈に落ちてきているように感じます。
一方、数学嫌いの文系出身者が量産されているように、時代に必要とされている人材の育成には多くの課題が残されています。
世界の時価総額ランキングのTop10企業にAI技術を導入していない企業はありません。
日本の金融企業は文系エリートのキャリアというイメージが根強くありますが、世界の外資金融企業では積極的にエンジニア採用を行なっています。
時代の変化に伴って、必要となる人材も変化しています。
(参照“ゴールドマン・サックス、自動化でトレーダー大幅減 3割がエンジニアに”)
この記事ではエンジニアがAIを学ぶべき理由を解説し、「AIの学習が自分にはできない」と諦めている方に3つの事実をお伝えします。
『数学嫌いの私にはAIは無理』と諦めかけている方も是非読んでみてください。
記事のもくじ
非エンジニアもAIを教養として学ぶべき理由
非エンジニアにとってもAIが当たり前の教養になっていくから
誰もががAIの知識を持っている事は当たり前の世界になっていきます。
中国では、すでに政府や企業が一体となり、小中高の段階で人工知能の教育を取り入れる動きを見せています。
アジアでNo.1の大学である清華大学のカフェに行くと、自動運転車技術の話をしている学生がいるのは日常の光景です。
数年後には『AIは教養』と教育現場でも呼ばれる日も遠くないかもしれません。
日本の小学校・中学校の基礎学力レベルは世界と比べて高水準にあります。
そのため、多くの日本人の基礎学力は平均的には高いでしょう。
しかし、中国のように時代にあわせて教育を変革していくと、将来的には圧倒的な差が広がっていきます。
日本政府も高校生・大学生に対してAIを基礎教育とする動きはありますが、プログラムの中身やその実行力、教育可能な人材の数など課題は山積みです。
想像してみてください
あなたがAIについてニュースで流れている情報程度しか知らずに10年が過ぎたとします。
その間に現在の小学1年生は高校生3年生になっています。
「AIについてよく知らない社会経験のみが武器のあなた」と、「AIの基礎知識をもとにディープラーニングのプログラムが書ける高校生」
どちらが2030年に価値のある人材と言えるでしょうか?
当然、単純比較はできませんし、未来の予想をしても意味はありませんが、あなたよりも高校生に給料を払いたいと思う企業がたくさんいても不思議ではありません。
人口減少の影響もあり、ますますのGDP成長の悪化が懸念されている日本が、戦うべき武器なしに衰退していくのは非常に勿体無いです。
AIの学習教材や開発環境も充実している中で、AIを教養として学んでみてもよいのではないでしょうか。
数学の基礎学力さえあれば、2ヶ月程度で最低限の知識は身につくでしょうし、文系と言われるような人でも半年あれば同様の知識を身に付けることは可能です。
重要なのは手を動かすことです。
ビジネスチャンスやキャリアアップに繋がるから
AIの技術を身につけることで、ビジネスチャンスやキャリアアップに繋がる可能性が高まります。
さらにそれに加えてビジネスなどの+αの知識を身につければ、あなたの市場価値はさらに高まります。
新たな価値を見つけるには、当然技術(ディープラーニング)のことが分からなければならない。経営者が分かっていなければ技術の活用に踏み切れない。それにもかかわらず、残念ながら日本には技術とビジネスの両方を分かっている経営者が少ない。
東京大学の教授でありソフトバンクの取締役も務める松尾氏のインタビューでの一言です。
技術とビジネスの両方を習得できれば大きなチャンスがあると捉えることができます。
AIを学ぶことはプログラミングができるようになるということではありません。 データサイエンスの文脈でAIを考えてみましょう。
データサイエンティスト協会スキル委員会4thシンポジウム講演資料
スライドにあるように、下記の3つの力を持つことでデータサイエンティストとしてのバリュー(価値)が生まれます。
- ビジネス力
- データサイエンス力
- データエンジニアリング力
高いビジネス力を持っていれば、他の2つの知見を得ることで大きなバリューが生みだすことができます。
GoogleやAmazonのような世界トップ企業のデータサイエンティストが3つの領域で博士号のような専門レベルを持っているわけではありません。
どれかのレベルで専門的知識を持っており、そのほかのドメインへの知見もあるからこそ、スペシャリスト同士の効果的な連携を可能とし、圧倒的成果を生み出しています。
先ほどの『日本には技術とビジネスの両方を分かっている経営者が少ない』という言葉にあるように、AIを筆頭にした技術を前提に、 + α を持っている人材はとてもつもなく市場価値が高いといえます。
AI学習は教養として身につけられる
プログラムが書けるだけでは十分ではなく、あなたのビジネススキルを拡張してくれるのがデータサイエンス力やエンジニアリング力という話をしました。
しかし、『数式が出てきたら挫折してしまうだろう』と不安に思っている方も少なくはないのではないでしょうか。
数式を使いこなせる人の市場価値が高いのは当然ですが、数学のスペシャリストにならなくても機械学習(マシーンラーニング)や深層学習(ディープラーニング)を扱うことは可能です。
- 便利なツールが増えてきている
- プログラミングせずに、機械学習の操作ができる
- 数式はただの記号ではない
便利なツールが増えてきている
プログラミングにはモジュールやライブラリといった簡単なコードで便利な機能を扱うことができるツールがあります。
このツールを使うことで、難しい数式の羅列もコード一行で表現できてしまいます。
また、これらのツールはAI市場の成長に伴い増えてきています。
なぜその機能(ツール)を使うのがベストなのかを説明できる必要はありますが、コードを細かく実装せずともAIで使われているプログラムを書くことは日に日に簡単になっていることは間違いありません。
プログラミングを使わなくてもデータ分析が可能
もしあなたが既に社会人であるなら、エクセル操作に慣れている人も多いのではないでしょうか。
データサイエンスの世界ではコードですべての仕事が進められているわけではありません。
エクセル(やそれに似たTableau)というツールも当然のように使われています。
さらにGoogleのCloud AutoMLという手動で多くの機械学習を行うことができるサービスもあります。
WordPressやWixという“エンジニアで無くてもWEBサイトが作れる”というサービスがあるように、“エンジニアで無くても機械学習ができる”というサービスはAIの世界でもますます充実していくでしょう。
エクセル分析でも機械学習のプログラム実装でも重要なのは『目的を明確にすることで正しい課題設定を行い、信頼できる推論が導き出せているか』という点です。
これには先ほどあげたような、ビジネス力やサイエンス力の掛け算が必要になってきます。
数式はただの記号ではない
数式は単なる記号ではなく、現実世界の事実をシンプルに表したものという風に捉えられると楽しく学習することが可能です。
さらにこれは誰かが作ったルールではなく、事実を数字に置き換えているだけなので、変更できません。
英語の法則、公式などは共通認識があればルールが変わっても会話が成立しますが、数式が表す事実は人間の力では変えることはできないのです。
誰が言っても変わらない普遍的な事実を、数字という分かりやすい形で見えるようにしているのが数式です。
高校の微分積分の授業でこのような公式を習ったことを覚えているでしょうか。
当然、公式なので正しく値を代入していけば求めるべき解を導き出すことはできます。
それがゆえにテスト前に公式を丸暗記して試験で正解は出せたけど、それ自体を説明できないという人は少なくないのではないでしょうか。
数学の公式とは一つの法則性であり言語表現のようなものです。
しかし、英語の公式は変更可能なのに対して、数式は人間の力では変更できないという違いがあります。
例えば「私は太郎です」を「I am Taro」と英語に変換する際、主語 + Be動詞 + 名詞という法則/公式に当てはめるでしょう。
人間が「”主語 + Be動詞 + 名詞”という法則にしよう」と定義付けたわけです。
英語の公式は人間が定義付けたものなので、変更も可能です。
もし王様が『Be動詞をなしにしよう』と命令し、「I Taro」という表現が公式として認められたとしても、共通認識があれば会話の齟齬は生まれません。
一方、万有力学のような自然界の物理法則は人間では変えようがありません。
万有力学は宇宙の全ての物体の間に引力が働いていることを証明するものです。
私たちは雨の天気を晴れに変えることができないように、自然界の物理法則は王様の命令でも変えることはできません。
数式は実際に私たちの世界をシンプルに記述しているものです。
数学者や物理学者は世界を数式で描写することを「美しい」と言う理由が何となくわかったのではないでしょうか。
Googleの創業者のセルゲイブリンが数学の天才であり、天才起業家のイーロンマスクが物理学を大切にしているのは、王様の命令では変えられない原理・原則の重要性や楽しさを理解しているからなのかもしれません。
話を戻すと、数式は単に記号を並べているわけではなく、私たちの周りの普遍性を美しく記述しているものです。
だからこそ、数学を勉強する際はその動きを実際にイメージすることが重要です。
英語を話すことに慣れると文法を考えずにスラスラ話すことができるように、数式も単なる記号ではなく法則表現としてとらえることができれば、楽しくなっていくでしょう。
まとめ:重要なのは手を動かし、AIを教養として身につけること
この記事で伝えたいポイントは以下の3つです。
- AIは教養だと思って、興味があるなら学んだ方が良い。
- プログラムがかけるだけでは十分ではなく、スキルの掛け算が重要である。
- 数式を単なる記号ではなく、現実世界の法則に落とし込むと学びが楽になる
AIを知ることで、人間の知覚能力の高さに気がつく人もいるでしょう。
人間の知覚レベルの高さに気づくことができれば、AI(だけでなくITインフラ)に代替できる仕事の効率化を図り、人間にしかできない仕事にフォーカスできます。
実際に手を動かすことで見えてくる事は沢山あります。
無理に勉強する必要は当然ありませんが、興味があるのなら実際に手を動かして学ばれることをオススメします。