AIは様々な分野で活躍が期待されるテクノロジーですが、それはエンターテイメントの分野においても例外ではありません。
テレビゲームは昔から新しいテクノロジーが積極的に採用されてきたエンターテイメントの1つですが、ゲームにおけるAIの歴史も古く、導入事例はいくつも確認することができます。
今回はそんなテレビゲームにおけるAIの歴史と、その活用方法や設計についてご紹介していきます。
記事のもくじ
ゲームに搭載される人工知能(AI)を作るプログラミングの歴史
もともとコンピューターのプログラムを発展させて誕生したテレビゲームは、テレビゲームが普及したかなり初期の段階からAIの原型とも言えるプログラムが存在していました。
人工知能(AI)の歴史が古いテレビゲームの世界
AIとテレビゲームをクロスオーバーさせる実践的なプロジェクトは、1940年代からすでに確認されています。
最もポピュラーな例として歴史があるのは、例えば「スペースインベーダー」(1978)の例が挙げられるでしょう。
スペースインベーダーは言わずと知れたアーケードゲームの金字塔で、日本のアミューズメント会社、タイトーが世界的な大ヒットを巻き起こした作品です。
プレイヤーは単なる的当てではなく、AIとの対決をテーマにコンピューター操作の敵キャラと銃撃戦を繰り広げることとなり、まさに生きるか死ぬかの死闘がドットの世界で表現されました。
また、当時としては初めてCPUを搭載したゲームであったこともあり、正確に計算してプレイヤーに対して射撃を行ってくる敵キャラクターの登場は、比較的高難易度のゲームとして評されるきっかけにもなりました。
しかしこの緊迫感が話題を呼び、若年層を中心に大人気の作品へと昇華していったというわけです。
出典:安藤健二『 「こんな難しいゲーム、誰もやらない」 酷評されたスペースインベーダーは、伝説の名作になった。』
ゲーム内にプレイヤーの動きから次の行動を予測するAIが搭載されるケースはこれだけにとどまらず、2Dゲームはもちろんのこと、より複雑な処理が必要となる現代の3Dのゲームにおいても、積極的に導入が進められていくようになります。
プレイヤースキルをリアルタイムで学習する人工知能(AI)
テレビゲームで活用されるAIが最も活躍するのは、プレイヤースキルに応じて難易度がリアルタイムで移り変わっていくという使い方です。
ゲームの難易度設計は、そのプロダクションにおいて最も配慮が必要な箇所のひとつともされています。
というのも、ゲームのスキルは人によってまちまちであるため、簡単すぎると「歯ごたえがない」と一瞬で飽きられ、難しすぎると「プレイヤーのモチベーションを喪失させる」と評されてしまうことになるためです。
この問題をAIの導入によって解決しようという取り組みも、海外のテレビゲームで積極的に行われてきました。
AIによる難易度設計は、例えば『Left 4 Dead』がその代表例としてよく取り上げられています。
Left 4 Deadはせまりくるゾンビを撃退しながら目的地を目指すアクションシューティングですが、この時の登場するゾンビの数や出現パターンは、プレイヤースキルをAIが自動的に認識し、そのプレイヤーレベルに応じて難易度が少しづつ変更されているのです。
プレイヤーのスキルが高そうなら積極的にゾンビを投入し、常に戦闘状態が起きているほどの難易度に変化してしまう一方、体力が少なく、スキルも追いついていないプレイヤーであればゾンビの出現量を減少させ、なんとか目的地にたどり着けるようレベルが変動します。
このような自動難易度設定により、どんなスキルを持ったプレイヤーに対しても公平にゲームを楽しめるよう、AIによってゲームがリアルタイムで制御されているのです。
出典:伝ファミニコゲーマー『21世紀に“洋ゲー”でゲームAIが遂げた驚異の進化史。その「敗戦」から日本のゲーム業界が再び立ち上がるには?【AI開発者・三宅陽一郎氏インタビュー】』
ゲームで使う人工知能(AI)の作り方のプロセス
次に、このようなAIがテレビゲームへどのように導入されているかについても見ていきましょう。
人工知能(AI)プログラミングの仕組み
AIをテレビゲームの中に導入する場合、それらにはいくつかの種類があることを覚えておきましょう。
例えば、CPUのキャラクターが自律的に行動できるようになるためのAIを、「キャラクターAI」と呼びます。
床や壁のようにあらかじめ配置されているオブジェクトとは異なり、プレイヤーの挙動に合わせて自身の挙動も合わせていくことができる柔軟性を持ち合わせています。
そして2つ目に「ナビゲーションAI」です。
これはそれぞれのAIやプレイヤーへゲームの現在の情報をリアルタイムに伝えるためのAIで、プレイヤーが進むべき進路やCPUとプレイヤーのどちらが有利な状況なのかを客観的に判断するのもこのAIです。
そして実体を持たない、ゲームの状況に合わせてその環境や難易度を管理するのが「メタAI」と呼ばれるものです。
前述のような難易度設定を自動で行なったり、マップの生成を行なったりするのがこのAIです。
AI実装の難易度について
大きく分けると上の3つのような分け方ができるテレビゲームのAIですが、導入の難易度としては上から下へ行くにつれて難しくなると考えて間違い無いでしょう。
キャラクターAIはプレイヤーがどう動くかによって、それに対する最適のアクションがお行われればいいだけですから、パターンを把握できればプログラムはそこまで難しくありません。
ナビゲーションAIもプレイヤーやキャラクターの行動パターンはある程度初めから制限されているため、そこまで進路決定を自動化することが複雑化するケースも少ないものです。
一方、難易度を自動調整するAIは、これまでのプレイヤーのスコアや行動パターンをリアルタイムで計測してアウトプットを行う必要があるため、その導入難易度は高いものになります。
複雑な計算を何度も行わなければなりませんが、非常にゲームをエキサイティングなものにしてくれるでしょう。
ゲームの人工知能(AI)の作り方を学べるプログラミング教本7選
最後に、ゲームAIの設計に使えるであろう教本もいくつかご紹介しておきます。
人工知能の作り方 ――「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか(技術評論社)
ゲームAIの第一人者、三宅陽一郎氏によるベストセラーです。
80年代から現代に至るまでのAIの歴史やメカニズムを、事例付きで詳しく学ぶことができるため、知識を備えたいと考える人には最適の一冊です。
ゲーム開発者のためのAI入門(オライリージャパン)
こちらは2005年に販売されたゲームAIの入門書です。
ゲームを面白くするためのAIの導入に必要な知識やスキルを後半に学ぶことができるため、プログラマは読んでおいて損はない一冊です。
実例で学ぶゲームAIプログラミング(オライリージャパン)
上記の教材と似たような内容ですが、こちらは実例からAIのメカニズムを学んでいくアプローチがに力を入れています。
テクニックだけでなく、「あのゲームはこうだった!」という親近感のあるレクチャー形式となっているので、サクサク読み進めることができます。
ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術(秀和システム)
こちらはセガで実際にプログラマ魔として活躍している人がレクチャーしてくれる教材となっています。
著者が実際に担当した新人向けのカリキュラムをもとに作成されているため、実践的なスキル習得に役立ってくれるでしょう。
ゲームAIと深層学習: ニューロ進化と人間性(オーム社)
こちらも実例とともにゲーム内のAIを紹介しながら、実践的なスキルを身につけていくための教材です。
最新の人工知能のトピックにも触れ、AI全般の知識の拡充にも使える一冊です。
ゲーム情報学概論- ゲームを切り拓く人工知能(コロナ社)
ゲーム情報学という切り口からゲームのAIを取り上げ、それを支える情報処理技術の基礎を学ぶことのできる教材です。
その密度の濃さから、ゲームを通じてAIをしっかりと学びたい人には最適の一冊です。
FINAL FANTASY XV の人工知能 – ゲームAIから見える未来(スクウェア・エニックス)
最新のAIが搭載され、ゲーム栗田ーだけでなくAI研究者たちもあっと驚かせたとして話題になったFF15のAI解説書です。
現代の先端技術を使ってゲームを作るとどうなるのか、をしっかりと学べる一冊に仕上がっています。
ゲームで使う人工知能(AI)の作り方のまとめ
ゲームには常にテクノロジーがふんだんに盛り込まれてきたものですが、中でもAIはその運用方法もセオリー化されるなど、高いレベルで活用されてきた歴史を持っています。
AIというテクノロジーが脚光をあびる中で、AIの研究が初期から行われてきたテレビゲームの世界にも注目が集まりつつあります。
教材も様々なものがニーズに合わせて出版されているため、AIを新たに学んでみたいという人にもテレビゲームはとっつきやすいトピックとなっているのではないでしょうか。